2019年希少なカカポの記録的な繁殖を支えた、世界最先端の保護とは?(その1〜基本編)

ニュージーランドの絶滅の危機に瀕した飛べないオウム・カカポは、繁殖期を迎えた2019年の初夏には、全部で147羽しかいませんでした。

それが、夏の終わりまでには252個もの卵を産む大繁殖! 70羽以上のヒナが育ち、記録的な繁殖期となりました。

もともと、数年に1度しか繁殖せず、なかなか増えなかったカカポ。その大繁殖の裏側では、世界でも最先端を行く希少種保護のさまざまな作戦が展開されていました。

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ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ 59/1000

 

Kia Ora!  うちだいずみです。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ、59個目の今回から、カカポの大繁殖を支えた保護方法をがっつりまとめてご紹介していきましょう。

カカポ保護の基本:みんな最初は「冒険」だった

現在、カカポの保護の基本となっている方法がいくつかあります。

しかし、実を言うと、今は当たり前のように保護の現場で使われている方法でも、最初は「冒険」と考えられていて、保護官の人たちがリスクを取りながら挑戦していったものなのです。

ニュージーランドが希少種保護の「最先端」と言われるのは、リスクを取りながら進めているからこそなのです。

それでは、どんな方法なのか、ご紹介しましょう。

オコジョやネコ、ネズミなどを駆除した安全な離島で保護

 

カカポはかつて、ニュージーランド全国に生息していました。それが激減してしまったのは、生息地である森が失われたことと、人間や、人間が連れてきたオコジョ、ネコ、ネズミなどの外来種に食べられてしまったためです。

特に、外来の捕食者は、森の奥にまで入り込んでおり、カカポやキウイ、タカへのように地上に住む鳥たちの大きな脅威となり続けています。

カカポなどの数が減った原因は外来種にあることを憂い、最初に保護に取り組んだのは、リチャード・ヘンリー Richard Henry (1845–1929) という自然保護者です。

今から100年以上前に、リチャード・ヘンリーは、数百羽というカカポやタカへを捕獲して、当時、捕食者がいなかったフィヨルドランドの奥地のレゾリューション島に移しました。

これがニュージーランドにおける「絶滅の危機にひんした動物たちの離島保護」の始まりです。

しかし、残念ながら、リチャード・ヘンリーが鳥の楽園を望んだレゾリューション島には、のちに対岸からオコジョが泳ぎ着いてしまいました。そして、この島にいたカカポやキウイは全て死に絶えてしまいます。

捕食者のいない島では守れない……そのことが明確に分かってきたニュージーランド政府は、陸から離れた島を選び、全域の捕食者を全て駆除し、安全な生息地を作りあげて保護する戦略を立てました。

とはいえ、島全部からネズミなどの小さい動物を全て駆除することが本当にできるのか、また毒を撒くのは環境に悪いのではないか、などという声ももちろんありました。

しかし、他に手段はないと見極め、島全体に毒餌の入った罠を仕掛けたり、ヘリコプターから蒔いたりして徹底的な外来捕食者の駆除を行ったのです。そして、駆除は成功しました。

その結果、外来捕食者のいなくなった環境には、間も無く原生の動物や植物が戻ってきました。現在カカポが守られている島々も、そうしたところなのです。

現在、カカポは主にハウトゥル/リトルバリア島フェヌアホウ/コッドフィシュ島アンカー島の3島で保護されています。以前には、モード島という島で保護されていたこともありましたが、森が少なく、繁殖にあまり向かないということで、他の島に移されました。

 

ハウトゥル/リトルバリア島のネコは1980年に、ネズミは2004年に駆除されました。フェヌアホウ/コッドフィッシュ島のウェカ(原生の鳥だが、卵などを食べる)とフクロギツネは1986年に、ネズミは1998年に駆除されました。アンカー島にはオコジョがいましたが、2001年に駆除されました。

この3つの島のうち、フェヌアホウ島とアンカー島に繁殖できるカカポが集められて、今年のシーズンを迎えたのです。

ヒナが増え、島がいっぱいになってきてしまったので、今後の緊急課題は、次の生息地となる離島を作ることとなっています。

 

カカポの繁殖は予想できた! 鍵を握るリムの実の生り年とは?

 

今年、カカポが大繁殖した第一の要因は、リム(Rimu / Dacrydium cupressinum)というマキ科の原生植物が、50年に1度という記録的な豊作を迎えたことです。

そして、実は自然保護庁のカカポ保護チームはずっと前からこのことを知っており、今年はカカポが大繁殖するだろうと予想していました。

なぜかというと、リムは、実をつけてから15ヶ月かけて成熟するので、昨年の今頃すでに、フェヌアホウ島とアンカー島でリムの実のなり具合を調査してあったのです。自然保護庁のレンジャー、ブローニー・ジェインスさんによるこちらの記事に詳しい話が載っています。

リムの実は、こんな風にだんだんと育っていきます。

Photo by Bronnie Jeynes

 

この、1番左の緑色の実のついた状態が昨年の段階で、一番右が15ヶ月後に熟した段階です。赤い部分が甘いところ(カカポの好物!)で、先の黒い部分は種です。

保護チームは、昨年、継続的にモニターしている木に登り、枝先をひとつひとつ調べて、どのくらいの割合で実がついているかをチェックしていました。

 

Photo by Bronnie Jeynes

 

その結果、昨年は調べた枝の47%に実がついていることが分かりました。これまでで一番多いときより、さらに10%も多い割合です! これで、2019年の大豊作・大繁殖を予想できていたというわけです。

それでは、どうしてリムの実がなるとカカポが繁殖するのでしょうか。

数年前、マッセー大学の研究により、リムの実に大量に含まれるビタミンDとカルシウムが、カカポの産卵と子育てに欠かせないということが分かってきました。これらが、繁殖の引き金になる可能性がある、というのです。

もっとも、秋になって熟すまで、カカポはリムの実は食べていないわけですから、どうして豊作と分かって繁殖をするのか、まだ謎は残っています。

木が何かの植物ホルモンでシグナルを出しているのでは、と考えるカカポ関係者もいるのですが、このあたりはやがて解明されていくのではないかと思います。

 

カカポたちの栄養状態を最善に! 大事な補助餌

 

ニュージーランド政府の自然保護担当者の中には、もともと「放っておいて、自然にバランスが取れるのを待とう」という放置主義者が結構いたそうです。昔は外来種問題などがよく知られておらず、特に肉食動物と草食動物が生態系に共存しているヨーロッパからきた偉い学者は、肉食動物のいないニュージーランドについてきちんと理解せず「時が経てばバランスが取れていくだろう」と楽観的だったのが大きな要因のひとつです。

しかし、放置しているうちに、カカポも1960年代には「1羽でも生き残っているのか、それさえ分からない」という状況に陥ってしまいました。

1990年代に入っても、自然保護庁の中には「積極的にカカポを助けよう」という意見(主に現場の保護官)と、「カカポのことはカカポに任せよう」という意見(主に高い地位にいる偉い官僚学者)がせめぎあっていました。

そこで、リトルバリア島では実験的に補助餌を与え、コッドフィッシュ島のカカポには何も補助餌は与えない方針が立てられていました。

しかし、1992年、繁殖期を迎えたコッドフィッシュ島では夏に嵐が吹き荒れ、リムの実が熟さないうちにみな落ちてしまいました。食べ物がないため、唯一繁殖していた母鳥もヒナたちも、体重が落ちきって、飢え死にしそうになりました。当時、生存していたカカポは全部で約50羽、メスは15羽しか残っていないというギリギリの状況でした。

報告を聞いてウェリントンから飛んできた保護官のドン・マートンさんは、ヒナを一目見て「これは今晩助けないと間に合わないかもしれない」と決断、その場で全てのヒナを救い出したのです。

この時から「大事なカカポに補助餌をあげないと、飢え死にしてしまうかもしれない」と、保護の方針が代わり、以降は積極的に保護をして、補助餌もずっと与えることになったのです。

 

補助餌はそれぞれのカカポに合わせたスマート餌台で!

 

補助餌は、最初はサツマイモ、りんご、アーモンドなどから始まり、インコ・オウム用のペレットに変わっていきました。

そして、何よりも大きな変化は、スマートホッパーと呼ばれるハイテクの餌台が使われるようになったことでしょう! このハイテク餌台は、それぞれのカカポが背負ったトランスミッター(無線)の信号をキャッチして、その餌台で食べてもいいカカポがきた時だけ開く、という仕組みになっています。

しかも、餌台には乗らないと食べられないので、乗ったときに体重も測定し、それがデータ送信されるようにもなっています。

どうしてここまでするかというと、保護の経験から、メスの体重が重くなるとオスのヒナが生まれやすくなるのではないか、という仮説が立てられたからです。

補助餌のおかげで、食べ過ぎ・太り過ぎのメスが増え、オスばっかりになったら、子孫が残せなくなります。そのため、細かく体重を管理し、メスは1.5kg以上1.9kg以下になるように誘導しているのです。これは、今シーズン初めての試みです。

このスマートホッパーに関する面白い連続ツイッター投稿があるので、こちらでご紹介しますね。いつもカカポ情報を伝えてくれる、カカポ・サイエンティストのアンドリュー・ディグビーさんが昨年5月に投稿したものです。

スマートホッパーは、こういう形のものです。台に上がらないと餌にありつけず、この台の下には体重計が隠されています。繁殖が続いている場合は続けられますが、ヒナなどがいない場合には、春先の9月から補助餌の設置がスタートします。

以下の動画のように、餌台に「正しい」カカポが来ると、ちゃんと蓋が開いて、食べられるようになっています。

 

そして、笑えるのは、こちらの動画です↓

これは餌台に置かれたカメラから、ライブでレンジャー小屋に送られてくる白黒映像です。

この動画では、ツトコというオスが、メスのリサの餌台に来ているんですが、自分の餌台ではないので、蓋が開きません。無理やり開けようとして、めっちゃ餌台を揺さぶっています(上の動画)。

そのあと、このツトコが何をしたかというと、もっとすごい八つ当たり(下の動画)!

ちゃぶ台をひっくり返して・・・もとい、リサの水入れをひっくり返して空っぽにし、さらには台の下の体重計も攻撃して、壊してしまいました! よっぽど頭にきたんでしょうね(笑)

 

人工孵化、人工飼育、そして養母カカポによる子育て

 

上述したように、1992年、コッドフィッシュ島のカカポのヒナ3羽が飢え死にしそうになるという緊急事態がありました。この事態が、様々な新しい策を生み出す引き金となりました。

そのひとつは、人工飼育です。あるべき体重の半分くらいしかなかった小さなヒナを育てるために、24時間休みなく育て、元気になったところでオークランド動物園に送って飼育しました。

もうひとつは、養母カカポによる子育てです。この3羽のうち、1番大きかったヒナを、その時無精卵を抱いていた他のメス・ノラのもとに「預け」たのです。ノラは、卵を置いてご飯を食べに行って、戻ってきたら急に大きなヒナが巣で待っていたので、巣の入り口で固まってしまったそうです。

しかし、30分後には、ヒナを抱いて温めて、それ以降は自分の子として育ててくれたのです(食べ物が少なかったため、最終的にはオークランド動物園へ送られましたが)。

この、一見暴挙と見られるような策を編み出したのは、当時のカカポチームの中心人物、故ドン・マートン博士。

Photo by Photo by Errol Nye, National Kakapo Team, DOC

 

ドン・マートン博士は、ニュージーランドを代表する自然保護者で、数々の先進的な希少種保護政策を考案し、世界的なリーダーとなりました。

ドン・マートン博士を有名にしたのは、カカポの保護と、それからカカポよりもさらに絶滅の危機に瀕していたブラックロビンの保護です。

ブラックロビンは、小さなニュージーランド固有のヒタキで、生息地の消失などから1980年には世界でたった5羽、そのうち繁殖のできるメスは1羽というところまで数が減ってしまいました。

 

Photo by Frances Schmechel

 

このブラックロビンを救うため、ドン・マートン博士が考え出したのが、最後まで生き残っていたメスのオールド・ブルー(青い足環をつけていたので、こう呼ばれる)に出来るだけたくさんの卵を産んでもらい、種を救う、という方法です。

そのために、オールド・ブルーが卵を産むと、保護チームはその卵を巣から取り出し、卵のなくなったオールド・ブルーがまた産卵するように促したのです。

そして、巣から取り出した卵はどうしたかというと、なんと、ブラックロビン以外の鳥に預けたのです。カッコウは自分の卵を他の鳥に托卵することで知られていますが、同じことを他の鳥に託したのです。

これは、クロス・フォスターリング(種を越えた托卵/養育)という飼育や科学実験の方法ですが、これを希少種の保護に使ったのは、ドン・マートン博士が初めてでした。そして、この保護テクニックを使ったおかげで、ブラックロビンは絶滅から守られ、今では250羽ほどが離島に生息しています。

この経験があったからこそ、カカポの危機にあたって、ドン・マートン博士はカカポのヒナを、他のメスに託す、という賭けをすることができたのです。

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それから17年の月日が経ちました。カカポが大繁殖した2019年、保護チームは、最初のうち、生まれた卵は全てメスの巣から取り出し、メスにシーズン2回目の交尾・産卵を促しました。

また、人工孵化した小さなヒナは、無精卵しか産まなかったメスなどのところに「養子」に出して、世話してもらいました。

かつての経験から学んだことが、全て生かされているのです。

その結果、今年は252個もの卵が生まれ、ヒナもいっぱい孵って、たくさんの養母カカポも頑張りました! そして、それを管理する保護チームも、さぞかし大変だったと思います。

しかしその努力は報われています。今も生き残っているたくさんのヒナたちが、無事に巣立ち、さらに子孫を残しますように!

保護チームの新たな保護テクニックについては、また改めてご紹介しましょう。

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