2019年大繁殖のカカポ、父親がDNA検査で判明・人工授精も10年ぶりに成功しました!

ニュージーランドの絶滅の危機に瀕した飛べないオウム・カカポ。2019年の繁殖シーズンは、成鳥147羽から始まり、革新的な保護政策によって、卵252個、ヒナ86羽が生まれるという大繁殖年になりました。

しかし、4月から思わぬアスペルギルス症で命を落とす成鳥やヒナが続出。7羽を失う緊急事態に、世界中のカカポファンからも、応援の寄付が届きました(ご協力くださったみなさま、ありがとうございました!)。現在は、鳥たちは回復に向かっています!

さて、今回は、巣立ちはじめたヒナの父親がわかったので、その意味についてまとめてお伝えしましょう。

 

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ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ 64/1000

 

Kia Ora!  うちだいずみです。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ、64個目の今回は、ラジオ・ニュージーランド( RNZ)で連続放送中、シニア・プロデューサーのアリソン・バランスさん制作の『カカポ・ファイルズ7/17公開・22号)』から、ヒナの父親判明のニュースをお伝えします。

(アリソン・バランスさんには、内容紹介の許可をいただいていますm(_,_)m)

ヒナの父親が分からないって、どういうこと?

『カカポ・ファイルズ』で特集された「ヒナの父親」の話に入る前に、カカポの繁殖について簡単に説明しておきましょう。

カカポのメスは、繁殖期間中に1羽のオスだけと交尾をするとは限りません。

繁殖期になると、オスたちは、だいたい同じところに集まって、体が入るくらいの浅い穴(ボウル、と言います)をいくつか作り、その穴と穴の間を歩き回って道(トラック)を作ります。これをトラック&ボウルシステム、と言い、それぞれのオスの縄張りのようなものとなっています。

ここにメスが訪ねて行って、オスと交尾をするのですが、メスが同じオスと1回だけ交尾をすることもあれば、何晩か続けて交尾をすることもあり、あるいは違うオスと交尾をすることもあるのです。

カカポのメスの体内には、いくつかの卵があって、順番に成熟していくのですが、交尾によって体内に入った精子もしばらく生きていて、その成熟していく卵に受精しようとします。

なので、複数のオスと交尾をした場合、どのオスの精子がどの卵に受精したのか、分からないのです。

そこで、カカポのヒナのDNA検査をして、父親を判明する必要があったわけなのです。

カカポのヒナの性別・父親等を調べるDNA検査とは?

『カカポ・ファイルズ(22号)』では、アリソンさんが、カカポのヒナの検査を担当したニュージーランドの農業研究機関、アグリサーチ(AgResearch)のジャンさんにインタビューをしています。

その内容を抜粋してご紹介しましょう。

“カカポのヒナの性別・父親を知る検査は、アグリサーチ社とオタゴ大学(ブルース・ロバートソン助教授)の共同によって行われました。検査方法は、DNAシークエンシングによる遺伝子型判定(genotyping by geno sequencing)と呼ばれているDNA検査です。

簡単にいうと、ヒナのDNAの一部を取り出して、それに似たパターンを持つカカポを探すというものです(注:カカポは世界で唯一、全固体がDNA解析されている種なので、全ての個体のプロファイルがわかっています)。

これによって、父親が判明するばかりではなく、鳥同士がどのくらい近い関係にあるか、も判別していきます。カカポのように個体数が少なくなると、遺伝子の多様性をできるだけ大きくし、近親相姦を避けたいので、これは大事なデータとなります。このデータを使って、どの鳥をどこの島に放すか、なども決めていきます。

アグリサーチ社は、普段は牛や羊や牧草の研究などをしていますが、このDNAシークエンシングによる遺伝子型判定(ジェノタイピング)を応用して、population geneticsという種全体の遺伝子管理もしているのです”

コラム:ご存知でした?  カカポの成鳥・全リストもありますよ!

 

これからのお話には個体の名前がいろいろ出てくるのですが、実は、Wikipediaに全名前リストが載っているのです。

それぞれの鳥の生まれ年(発見された年)、父親、母親、子などが簡単ですがわかります。

興味のある方はチェックしてみてくださいね。

今年、子作りに一番成功したオス(そしてメス)は、誰?

カカポ・ファイル、続いて、カカポ・チームのダリル・イーソンさんがDNA解析の結果を詳しく話しています。

“カカポのメスは複数のオスと交尾する可能性があるので、以前は父親が完全にはわかりませんでした。しかしDNA検査によって、今は分かっています。

ヒナのDNA検査をするためには、卵が孵ったあとの殻から血のサンプルを取りますが、それが出来なかった場合、生後3〜4週間になったときに採血しています。

その結果が判明しました。

これまで、メスのおよそ1/3は、2回か3回交尾をしており、複数のオスと交尾をしたメスのうちの2/3は、最後に交尾をしたオスの子を産んでいたのですが、今回はだいぶ違いました。

まず、1羽のメスが、複数のオスのヒナを生むケースが確認されたこと。例えばメスのトゥメケは、オスのボステアタポと交尾をし、ボスのヒナを1羽、テアタポのヒナを3羽産んだのです。

また、順番関係なしに、子孫を残せたオスもいます。オスのトゥトコテキンギは、交尾の順番に関係なく子ができたのです。

では、今年1番たくさんヒナを残したオスは誰だったかというと、フェヌアホウ島では、なんと今年がはじめての繁殖期という8歳のコマル君! 10羽ものヒナが生まれました! 今までは、はじめて繁殖期を迎えるオスはなかなか子を作れなかったので、これも新しい事実となります。

その次にフェヌアホウ島で子を残したオスは、同じく8歳、初繁殖期のトゥトコ君で、5羽のヒナが生まれました。またテアタポも5羽のヒナが生まれました。

アンカー島ではどうだったかというと、ホートンが10羽のヒナを、タカティムテキンギが8羽のヒナを残しました。

一方、メスはどうかというと、8歳になるワイカワのヒナが一番数多く生き残っています。ワイカワは卵を8個も産んで、そのうちの7つが孵り、5羽が生き残っています。

今までの例では、メスのフロッシーが一番たくさんヒナを残しており、12羽いますが、今年はハウトゥル島にいて、繁殖には参加させませんでした”

(上のツイッター動画はワイカワとヒナのコタヒタンガ(Kotahitanga =団結、という意味)。クライストチャーチの銃撃を受けて、このヒナだけ、早期に名前がつけられました)

コラム:フェヌアホウ島のコマルくん

 

繁殖期に初参加して、いきなり10羽ものヒナを作った、2011年生まれのコマルくん! 実は、今までも、何度かカカポ保護シーンに登場しています。

昨年は、クロアチシス(cloacitis)という、総排出腔の炎症(つまり、お尻の穴のところに炎症があった)のためにオークランド動物園に入院。体重が減ったということで、チューブで食物を入れてもらっている動画がアップされています。

そして、元気になって退院してからは、トランスミッターを交換する時に、逃げ回って、カカポチームのアンドリュー・ディグビー博士に「簡単じゃなかった!」と言われています。

 

ちょっとした有名カカポで、問題カカポ? だったコマルくん。これでますます、名を知られるようになりますね!

子孫を残せなかったオスたちは?

たくさんの子を残すオスたちに対して、なかなか子孫を残せないオスもいます。カカポチームは、遺伝子の多様性を確保するためにも、できるだけ多くのオスにチャンスを与えようとしています。

ダリル・イーソンさんの話を引き続きご紹介しましょう。

“今までのオスを見ると、フェリックスには12羽の子孫がいて、ブレーズも19羽の子孫を残しています。そこで、フェリックスとブレーズは、今年はハウトゥル(リトルバリア)島に残し、繁殖に参加しないようにしました。

そうすることによって、2〜3羽のオスだけが全部のヒナの父親になるというのではなく、多くのオスにチャンスを与えようとしているんです。

しかし、今年は、5羽のヒナを残したボス、4羽のヒナを残したバジルを以外、ファウンダー(注:1980年代にスチュワート島で発見された、今のカカポ全体の元になる鳥たち)たちには良い年ではなかったのです。この鳥たちの中には、4〜5羽、全く子を残せなかったり、あるいは交尾さえしていないものもいて、とても残念です。

また、マヌ、マーヴ、モスには、ヒナが生まれたけれども、全部死んでしまいました。これもとても残念です”

 

コラム:ボスくんの記録

 

ボスくんは、子孫を残したばかりではなく、今年は記録作りにも関わっています。

それは「繁殖シーズンのはじまる日が、記録上もっとも早かった」というものです。

メスのパールちゃんが、ボスくんを訪ねたのが、2018年の12月18日〜19日の夜。これは、今までよりも1週間も早い記録となりました。

長く、そして山あり谷ありの繁殖期。カカポチームのみなさんもお疲れ様です。(写真は左がボス、右がパール)

人工授精の理由、そして今年の結果はいかに・・・・?

この、並々ならない忙しい繁殖年に、カカポチームはさらに「人工受精」にも挑戦しました。どうして人工授精をするのか、その意味と、今年の結果を、ダリル・イーソンさんが詳しく話してくれています。

カカポに人工授精をする2つの理由と、これまでの成果

“人工授精をする理由は、2つあります。

ひとつは、遺伝子の多様性を保つためです。ファウンダーのオスの数羽など、まだ子を残せていない鳥がいるので、なんとか遺伝子を残せるように、補助をするためです。

もうひとつは、メスの繁殖率を高めるためです。これまでのデータでは、1回だけ交尾したメス(メスのおよそ半数がこれに当たる)が有精卵を産む確率は48%であるのに対し、2羽のオスと交尾したメスは90%の確率で有精卵を産んでいます。

メスに何度も違うオスと交尾するよう促す方法が分からないので、人工授精を試みているのです。

とはいえ、この10年間、人工授精は全く成功していません。

人工授精は2008年から取り組んでいます。この年は、繁殖する個体が少なく、ほんの少ししかできませんでした。

2009年には、5羽のメスに人工授精を施し、2羽が成功、今もそのときのヒナのうち3羽が生き残っています。

しかし、この時成功して以来、2011年、2014年、2016年と1度も成功しませんでした。

2011年と2014年は、繁殖数が少なく、2羽ずつくらいしか人工受精をしませんでしたが、2016年には15羽のメスに人工受精をして、全て失敗していたのです。

2016年の時には、精液の希釈液も、人工授精の方法も、全部同じやり方でやっていました”

 

そして今年、10年ぶりに人工授精に成功!

 

“今年は、嬉しいことに10年ぶりに人工授精に成功しました!

13羽のメスに人工授精を施し、3羽が成功したのです。

今年が昨年と違うのは、3点あります。まず、メリディアン・エネジー(電力会社)のサポートを得て、ドイツのエッセン大学から人工授精の専門家を4人招聘できたこと。

2つめは、精液を保存するために使う希釈液を3種類と、まったく薄めないものを使ったこと。結果的には、薄めない精液と、2009年に使った希釈液を使ったものが成功しました。

それから、メスに人工授精を施す時に、今までと異なるポジションを使ったことです。ドイツの専門家も最初戸惑っていたんですが、カカポの総合排出腔は他のオウムとつくりが違うようなんです。でも、メスを仰向けにして、頭を下にすると、開口部がはるかに良く見えました。もしかしたら、今まで、精液を入れる場所があやふやだったかもしれないです。

繁殖に成功した母鳥は、ノラ、シンディ、マーガレット・マリーです。

ノラは、3つの卵を産んだんですが、そのうち2つは実際に交尾をしたトゥトコの卵、最後の1つが人工授精をしたシンバッドの卵だったんです。トゥトコの子は残念ながら2つとも死んでしまい、3つ目のシンバッドの子だけが生き延びているのですが、アスペルギルス症の治療を受けています。

シンディは、ファウンダーのマーヴの卵を2つ産みました。これは前述したマーヴの子としては初めてだったんですが、残念ながら、2つとも生まれて8日目くらいに胎児の段階で死んでしまいました。この時期は、よく死んでしまう時期なんですが、残念です。

マーガレット・マリーは、2つの卵を産んだのですが、1つめはとても小さく無精卵で、2つめは人工授精をしたスタンピーの子。オスのヒナで、元気に育っています。

スタンピーは、2009年にも人工飼育で2羽のヒナを残していますが、自分で交尾したメスには、子が残せていません。今年も、3羽のメス(ホキ・ゼフィール、ソルスティス)と交尾をしているんですが、みんな無精卵。子を作れているので、精子に問題があるわけじゃないんですが、交尾のテクニックに問題があるのかも?と考えられています”

コラム:空飛ぶスパーム号!?

今年の人工授精には、もうひとつ秘密兵器がありました。

それは、ドローン!

オスとメスをあらかじめ捕まえておいて、オスから精液を確保したら、すぐにドローンに乗せてメスの元へ届け、フレッシュなスパームを挿入、という挑戦です。

カカポたちのいるフェヌアホウ島は、小さな島ではありますが、山あり谷あり。道もない森の中を、カカポのいる場所目指して歩くのはとても時間がかかるのです。

そこで、何時間もかかる山道を行く代わりに、ドローンを使えば10分で精子を届けられる!という訳なのです。

このドローンにつけられた名前は、「スパームコプター」!

ドローンの使い方も、いろいろありますね!

コラム:ガリバー&シンバッドの特別な兄弟とは?

 

今回の繁殖期では、遺伝子の多様性の観点から、とっても大事なヒナが生まれました。

ニュージーランドに今残っているカカポは、本島でほとんどが「もう絶滅か!?」と思われていたときに、スチュワート島で発見されたカカポたちの子孫です。

しかし、本島フィヨルドランドで発見された最後のカカポたちの1羽、リチャード・ヘンリーだけは、3羽の子・ガリバー(オス)、シンバッド(オス)、クイア(メス)を残すことができ、この鳥たちは他の鳥たちとかなり異なる遺伝子を持っているのです。

そして今年は、ガリバーもシンバッドもクイアも、みなヒナが生まれました!

特に大きなニュースは、ガリバーとシンバッドの兄弟が子を残せたこと(クイアにはすでに4羽のヒナがいる)。

ガリバーは、スザンヌと交尾をしていましたが、さらに念の為、スザンヌにも人工授精もしてありました。おかげで、3羽のヒナが誕生! 実は全カカポの中で、ガリバーだけは、免疫力と関係のある特別の遺伝子を持っており、ヒナにも伝えられるように期待されています。

シンバッドは、人工飼育をされていた時期があったため、人に慣れており、その分「カカポ慣れ」していない心配がちょっとある鳥。今年はトフと交尾をしましたが、残念ながら無精卵(シンバッドも交尾のテクニックに問題があるのかも?)。しかし、人工授精の結果、ノラが1羽、子を残してくれました!

将来、たくさんのカカポが暮らしていくためには、遺伝子の多様性はとても大事になってきます。大きな進展、良かったです!

今回はDNA解析によって父親を確定することが、カカポの将来にとって大切なことであることをご紹介しました。

カカポの保護には、こうした遺伝子レベルのマネージメントから、離島の森の中をカカポを見守るために一晩中歩き回る仕事まで、本当に多岐に渡ります。

ひとつひとつのパズルが組み合わさって、ようやくカカポの保護は先に進んでいくんだなあ、と改めて感じます。

今回もお読みいただいてありがとうございました。感想などありましたら、気軽にコメントしてくださいね!

また、Twitterで自然保護庁からの情報などを随時お届けしていますので、アップデートを知りたい方は、フォローしていただけると嬉しいです。

Twitterアカウント→うちだいずみ@Kagiyaizumi

 

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コメント

    • Ai
    • 2019年 8月 13日

    Izumiさん、とても楽しく、そして興味ふかく拝見させていただいています。この番組、結構長いので日本語に訳してさらに分かりやすいように編集して記事にされるの、とっても大変だと思います。私の英語力で理解しきれないところがあるのでとってもありがたいです。少ない個体数からできるだけ多種の遺伝子を残すことは、単純に絶滅危惧種の数が増えるだけではなくて、その先の子孫が多様性を持って繁殖するために、そしてその個体たちが健康に生きるためにと〜〜〜っても大切なことなんですね。

  1. izumi
    • izumi
    • 2019年 8月 13日

    Aiさん、こんにちは! 嬉しいコメント、ありがとうございます!

    こちらの番組、とっても情報量が多くて、英語というよりは、たぶん背景情報が多すぎて、「あれ、あれ?」となってしまうこともあるんじゃないかなあ、と思います。引用、という形にすると、分かりにくくなっちゃいそうなので、編集をガンガン入れているんですが、そこを分かっていただいてありがたいです(笑)

    カカポ、いろいろ考えることが多くて、保護は難しいけど、他の種に応用できることも開発されているなあ、と思います!

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