審査員をやって考えた。写真コンテストで選ばれる写真、選ばれない写真

写真好きでインスタを延々とやっていたら、2019年オタゴ野生生物写真コンテストの審査員に選ばれてしまいました。写真コンテスト・・・私はほとんど応募したことがなかったんです・・・! でも、応募したらもちろん、受賞したいですよね。ポイントはどこなのか? 審査のバックステージ、しっかり見てきました。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ 52/1000

 

Kia Ora! うちだいずみです。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ、52個目の今回は、写真コンテストの審査員をつとめた体験から、審査はどのように進むのか、そしてどのような写真が選ばれないのか、選ばれやすいのか、レポートしましょう。

第1次選考:9割を落とすのは、簡単な作業だった

オタゴ野生生物写真コンテストは、ダニーデンを代表するオタゴ博物館が主催するコンテストで、今年で20回目を迎える権威あるコンテストです。

オタゴ地方に在住する人なら誰でも応募でき(14歳以下と15歳以上に分かれる)、以下のように部門別に審査され、総合1位も決まることになっています。

ー動物
ー植物
ー人間の影響(Human Impact)
ーペット
ー夜空
ービデオ

私ははじめての体験なので、どんな風に審査するのかな、とどきどきしました(審査員に選ばれた経緯はこちら)。

応募の締め切りは、3月1日(金)でした。すると、なんと当日夜には、審査員はすべての応募作品にオンラインでアクセスできるようになっていました。

そして、「それぞれのカテゴリーで10作品前後を選考してください」とメールで指示がありました。これが、第1次選考に当たります。

どのように選考するかというと、すべての作品にチェックボックスがついていて、チェックのついているものだけを見ることができるようになっているのです。そして、チェックが最後までついていたものが、残っていくのです。

作品には、公平を期すために応募者の名前はついておらず、タイトルだけがわかるようになっていました。

私はどんな作品があるのか見たくて、すぐに取りかかりました。

今回の応募総数は2125件。一番多かったのは動物部門で、1102作品ありました。1102作品を10作品にまで絞るのは、かなり大変です。

私の第1次選考は、こんな感じで進みました。

1102作品を見る→2日かけて198作品に絞る→113作品→60作品→41作品→33作品→29作品→21作品→19作品→16作品→11作品→10作品

最初の段階で、9割を落として113作品にするのは、見る数は多かったけど、実はとても簡単でした。落ちる作品が、すぐに分かったからです。

最初に選考から外れるのは、主に技術的な問題のある写真

 

全応募作品の中から、まず落ちていくのは、技術的な問題のある写真がほとんどです。具体的には、以下のようなものです。

  • ピントが合っていない。シャープでない。
  • 構図が決まっていない(主題が目立たない、余白が多すぎる、必要なところが切れているなど)。
  • 露出が合っていない(暗すぎる、明るすぎる)。
  • 色がおかしい(加工され過ぎている、合わないフィルターを使っているなど)。
  • 主題がありきたりである(ミツバチと花とか、特徴のない夕景とか)。

例えば、上のエリマキミツスイ(TUI)という鳥を撮った写真ですが(私の写真です)、これはすぐ落ちます(笑) 構図に魅力がない、色が暗い、ただ撮っただけで何を言いたいのか良く分からないからです。

編集でトリミングをしたり、色調整や露出調整をすれば、もっと良い写真にできるんですけどね・・・例えば、上の写真は、こんな感じだったらまだマシ・・・(それでも選びませんけどね!)。

 

とにかく、どうやら、コンテストに出そうというくらいの写真好きな人でも、まだまだ編集加工をせずに「撮ってそのまま」の人が多いということが分かりました。

かと思えば、逆に、フィルターなどを使っているらしく色味の変な写真もありました。自然写真では、不自然な加工は基本NGです(モノクロは別だけど、今回は選ばれていません)。

写真の主題(テーマ/対象)が面白くないものも、ここで落ちました。身近なものでも全然構わないのですが、どのように切り取るかよく考えていないものは選びません。

基本、技術的に大きな問題があるものと、ありきたりなものが、まず最初に選考から外れました。

技術的にさらに吟味、そして最後の30作品を10作品にするのは難しかった

 

動物部門を例にとって言うと、1102作品が113作品になった段階で、「さあ、いよいよ審査だ」ということになります。

113作品は、どれもなかなか魅力のある写真と思いましたが、ここではさらに技術的な吟味をしていきました。

特に、主題にフォーカスがきっちりあっているかどうか。ポートレイト写真であれば目、花のクローズアップであれば雌しべや雄しべ、などは「お約束」です。

また、良い写真であっても「これは同じ人が撮ったんだろうな?」と思われる似た写真が数枚ある場合は、全てが選ばれることはありません。今回は1人5枚まで応募できましたが、応募する方は予め自分で選び抜き、似たものは応募しないほうが良いです。

技術的なものをクリアしていくと、最後に30作品ほどが残ります。ここから10作品に減らすのが、難関でした。

どれもストーリー性があり、技術的にも素晴らしく、一瞬ではっとさせる力のあるものが残っています。

ここからは何度も何度も見て、選んだり選びなおしたりしましたが、私は「審査員が6人いるのはこのためだな」と思いました。個人の好みが出るからです。

数日に渡って何回か見直し、「自分はこれ」というものを10作品を選びました。

私は、動物の気持ちが伝わってくるような写真が好きなので、「メッセージ/ストーリー性があり、雰囲気があり、主題(動物)の表情に魅力がある」というものを主に選びましたが、他の審査委員は、別の基準を持っていたと思います。

みんなどんなものを選んだかな、同じものはどのくらい入っているかな、と思いながら、博物館へ候補を提出しました。

最終選考:「ぱっと見」優先!? ここで新米審査員、お気に入りのために頑張る

 

その数日後、審査員全員がオタゴ博物館に集合し、いよいよ最終選考が行われました。

今年の審査員の顔ぶれは、新聞社のカメラウーマン、フリーの写真家(特に夜景が得意)、NZを代表する野生生物写真家、オタゴ博物館の展示デザイナー、写真機材ショップのオーナー(20年前からコンテストのスポンサー)、それに不肖、私でした。

私は、野生生物写真家というタイトルをいただいていました❤️ ちょっと照れるなあ。

博物館のスタッフルームを通り抜け、大きなテーブルのある会議室へ通されると、そこには、プリントアウトされた写真が積まれていました。

第1次選考で審査員が残した写真が、全てA3サイズでプリントされてあったのです。

ここで、部門ごとに1次選考を通った写真が並べられ、みんなで最終選考していくんですが、部門が多いこともあり、結構ぱっぱと決まっていくんですよ!

審査の進み方は、割とカジュアルでした。審査員全員が写真をみながら歩き回り、「これはフォーカスが甘いね」とか「こういう写真はよくあるんじゃない?」などと評価、数人が「うん、そうだね」と合意すると、写真をどんどん裏返して、外していくんです。

もし、誰かが「これは落としていいんじゃない?」と言った時に、それが自分の推しであったら、「え、ちょっと待って! それは残しておいて」と意義を唱え、その理由を明快に述べないと、一瞬で消え去ってしまうんです!

最初、私は「あれ、あれ?」と面食らっていたんですが、間もなく仕組みが分かり、新米ながら懸命に「推し」の擁護に頑張りました。

「でもこれは、1枚の写真の中にいろいろな時間軸を感じることができて長い間見ていることができるし、色合いも一見地味だけど、深みがあって美しい」とか、

「この動物を撮影するのはものすごく大変で、時間がかかっているはずだし、しかも暗い森の中でピンを合わせて生態を撮影できたのはすごいこと」などと、他の百戦錬磨の審査員を説得するのに必死(笑)

特に分かったのは、審査員の中に「ぱっと見」で判断する人が数名いたこと。

今のデジタル時代、インスタ時代は、それこそ0.5秒で「いいね」を押してもらわないと永久に情報の渦に流れていってしまいます。なので、同じ感覚で「残す」「落とす」を判断しがちな審査員もいました。

しかし、この写真コンテストの受賞者は、作品を博物館で展示してもらうことができます。もっと長い時間かけて見てもらい、ストーリーを「読んで」もらうことができるのです。

なので、第一印象だけで決めてはもったいない写真を、特に私は擁護していたかと思います。そして、ちゃんと意見も聞いてもらえて、嬉しかったです。

選び方に違いはありましたが、審査員はみな、基本応募作品に対して愛情を持っており、「これ、大好きだわ」とか「色がなんとも素晴らしいね!」「構図がすごくて、最初からビビッときたよ」など、褒める言葉もたくさんたくさん聞かれました。

最後の数枚:決め手としてのメタデータ、そして最終的に選ばれる写真とは

 

こうして、審査員同士も写真専門家としての意見をたたかわせながらの選考を続け、最後には各部門ごとに3〜4作品が残ります。

ここでの議論がまた難しい。というのは、もうすでに選び抜かれているので、正直、どれを選んでもいい作品ばかりだからです。

この段階で、何回かは、写真のメタデータの検証となりました。作品はデジタルで応募することになっているので、その写真のデータも入手できているのです。

メタデータを参照し、どのようにして撮影したのか(難しい撮影をどうこなしているか)、不自然なところはないか(加工しすぎの可能性はないか)、動物に近寄りすぎて邪魔をしていないか(野生生物写真家としてやってはいけないこと)などを、カメラとレンズのデータから検証していったのです。

その結果、選考から外れた作品もありました。今の時代、メタデータはいろいろなことを語ってくれると、つくづく思いました。自分の参考のために、データを全部欲しかったくらいです(笑)

各部門が決まり、部門ごとの「審査員賞(2位にあたる)」も決まって行きます。そして、最終的に今年の応募作品の中から最高の作品として選ばれたのは・・・

なんとハエのマクロ写真でした。

このヨーロッパから移入してきたミヤマクロバエのマクロ写真は、信じられないほど隅々までピントがあっていて、色も虹色で美しく、「どうやってこんなすごい写真が撮れたのか分からない」などと審査員も脱帽。

メタデータを検証し、ある審査員が「これはレンズを逆につけたのではないか?」と言っていました。ググってみると、たしかにリバースアダプターというのがあり、それで撮るとマクロレンズになるという話・・・・

正直、私にはどういうことか良く分かりませんでしたが、あとでググろう!

とにかくハエもこんなに綺麗なんだ!と生物の神秘とデザインの素晴らしさを感じさせる作品でした。

最終選考作品は、写真にのめり込んでいる審査員が「どうやってこれ撮ったんだろう!」と驚くような超技巧派の作品で、2位の審査員賞は、アシカの家族がこちらを見ているというスナップに近いもので、心温まる作品でした。

どちらも、写真を見慣れている審査員が「これは見たことない!」と思うようなもの。そして、技術がしっかりしているもの。

ありきたりではありますが、そういう作品が「選ばれる作品」なんだな、と改めて思いました。

 

最優秀作品のミヤマクロバエを撮影した31歳のエンジニア、なんとこれが2度目の受賞!

審査結果の発表は、3月31日に行われました。環境エデュケーターの方によるエンターテインメントもあり、家族連れが楽しめるイベントになったと思うんですが、私はちょうど同じ日に、別のイベントの写真撮影の仕事が入っていて、行けませんでした。残念!

最優秀作品に選ばれたミヤマクロバエの写真を撮ったのは、マレー・マカロックさん(31才)。なんと、2014年にも受賞している素晴らしい写真家です(本業はエンジニア)。

写真コンテストの結果を伝える新聞記事によると、「ライティングが全てです」「虫はずっと大好きだったし、他の人が撮らない変わったものを撮りたいですね」ということです。

テクノロジーに強そう! 教えてもらいたい!

本当に、私も自分の技術を徹底的に見直さなくては、と痛感しました。

ギャラリーでの展示は8月まで! 動画もあってファミリーで楽しめます

 

発表会には行けなくて残念でしたが、今開催中の展示場には行ってきました!

会場は、オタゴ博物館の1階。プラネタリウムに続く広間が”Beautiful Science Gallery”という場所で、そちらで開催されています。

 

中に入ると、壁に今年の受賞者の作品がでかでかと映し出されており、その他の候補になった作品(私たちが見て、ひっくり返していたもの)が全て、パネルに貼って展示されていました。

 

 

オタゴ博物館の人気プログラム・プラネタリウムの入り口にあるので、写真展のことを知らない人も見てくれそうです。椅子もあるし、きた人たちはじっくり見てくれてました。

 

 

実は、この写真コンテストには動画部門もあり(動画の審査はまた別の人がする)、第一次選考作品の動画がみな見られるので、小さな子供達が何十分も座って見入っていました。

私もほぼ全部見ましたが、アマチュアとは思えないハイクオリティの作品もあって、新たな写真・ビデオ時代ということが良く分かりました。動画審査員も「今年はレベルが高い!」と言っていましたよ。

 

 

第1次選考以降に残った写真の展示は、今年8月4日までです。2000を越す応募の中からの選りすぐりの作品、ダニーデン にいらしたら、ぜひ見てくださいね!

さ、私ももっと写真を勉強しよう!

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