クライストチャーチの悲劇と気候正義の関係とは? 〜 気候変動のための学校ストライキで語られたこと。ニュージーランド5月編

2019年3月15日、世界的な動きである気候変動のためのアクションを求める動きに賛同し、ダニーデンでも第1回の学校ストライキが行われました。

しかし、同じ日にクライストチャーチでモスク襲撃という世界を震撼させた悲劇が起こり、学生たちの主張が広くメディアや国会で取り上げられることにはなりませんでした。

その2ヶ月後。学生たちは再び学校をストライキして、街に出ました。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ 67/1000

Kia Ora! うちだいずみです。

ニュージーランドの遊び方を1000個見つけるブログ、今回は、ダニーデン2回目の気候変動デモで見られた新しい動きと、それを囲む周りの様子、そして親として感じたことをご報告したいと思います。

クライストチャーチの悲劇を受け、警戒態勢。参加者も減った?

3月15日、クライストチャーチのモスクが白人至上主義者によって銃撃を受け、51人が亡くなり、多くの人が傷を負ったことは、ニュージーランドの全ての人の心にも大きな痛みをもたらしました。

幸い、ジャシンダ・アーダーン首相の的確な対応により、国民の間には一体感と平和な国を守ろうという気持ちが強く生まれています。

しかし、人の集まるところへの警戒態勢は厳しくなりました。

学生たちによるデモンストレーションのルートは、前回と同じでしたが、パトカーが学生たちを先導し、警察官たちが何人も集会場にスタンバイし、道路も閉鎖しました。

クライストチャーチの事件は単独犯ということは分かっていましたが、私の心の中にも、(もし模倣犯が同じような犯行を起こそうとしたら大変だな)という気持ちがチラッと浮かんだことは間違いありません。

今思い返すと、同じように「人が集まる場所」に対して危険を感じていた人は、他にもいたのではないかと思います。

というのは、それが原因かどうかは分かりませんが、私が見たところ、参加者がちょっと減っているような気がしたのです(今回も1000人は超えていると思いますが、正確な人数は分かりません)。

あるいは、2回目ということで新規性がなくなったのかもしれないな、と思いました。

しかし、原因は他にもあったのです。

ストライキ参加防止も。学校ごとに異なるストライキへの態度

「あなたが気候変動へのアクションをとるなら、私もテストを受ける」と学校からのプレッシャーに対抗する学生。

前回のブログでも書きましたが、私の娘はローガンパーク高校という比較的自由な校風の公立校に通っており、しかもこの高校のシニア3名が、ダニーデン市全体の学校ストライキをオーガナイズしている中心グループです。

そのためもあってか、ローガンパーク高校の生徒は、おそらく半分近く(300人ほど?)がデモに参加しています。

ジュニア1年目の娘も、仲良しの友だちと一緒に、当然のように2回目も参加しました。

しかし、他のいくつかの高校は、「環境クラブ等に属する学生しか参加しない」という状況が続いていました。

さらに残念なことに、ダニーデンで一番人気の男子高校からは、今回はおそらく1人の参加者もありませんでした。

その理由というのが、「学校側が、生徒をストライキへ参加させないように、同日に重要なテストをぶつけてきたから」なのだそうです。

私は他の参加者から話を聞いて驚きました。

学校ストライキと言っても、数ヶ月に一度、金曜日の昼〜午後の数時間だけ。

学生が学校の授業を選択するのはもちろん自由ですが、もしも社会問題に関心を持ち、自分からアクションを起こしたいならば、参加機会を学校が阻む必要があるとは思えないからです。

学校側の理由はどうあれ、生徒に判断をさせるオプションを奪うのは嫌だな、と思いました。

クライストチャーチの事件と気候正義の関係

今回も、学校ストライキ/デモは、チャンティング(シュプレヒコール)を叫びながらのマーチから始まりました。

コールは前回と同じでした。

What do we want?  – Climate Justice! (僕らの望みは? 気候正義!)

When do we want? – Now! (いつ欲しい? 今すぐに!)

街の中心地に集まると、学生代表によるオープニングスピーチが、クライストチャーチの事件への言及から始まりました。

気候変動とクライストチャーチの事件は全く関係がないのでは、と思われる方もいるかもしれません。私も、結びつけて考えたことはこの時までありませんでした。

しかし、学生代表のスピーチは、こうでした。

「気候正義」とは何か。気候変動の原因となる化石燃料の大量消費、CO2排出は、主に先進国・富裕国の所業であるにも関わらず、その影響を最大に受けるのは、例えば近隣の南太平洋の諸島などの開発途上国だ。この不公正な影響は、今後ますます多大になり、途上国はさらに貧窮していくことが予想されている。

「気候正義」は、地球環境だけの問題ではない。世界全体の社会構造、そして人権問題の是正を求めるものだ。

つまり、私たちが地球全体、人間全てのことを「自分たちの問題(They are US)」として考えて行動することが気候正義であって、これはクライストチャーチの事件への行動と根本は同じである、ということです。

私はこの時まで、そのような視点で気候変動問題を考えたことがなかったので、目から鱗でした。気候変動問題を深く考え、真剣に学んでいる学生たちに教えられた、と痛感します。

環境団体も登壇、地球の生物の歴史を守るアピール

スピーチの合間合間には、学生による弾き語りや、チャンティングが行われ、前回同様、楽しいライブ感のある集会になっています。

しかし、最後の方になって、学生ばかりではなく、環境保護団体がいくつかスピーチをしたのが、前回と違う点でした。

ひとつは、セントラルオタゴのフォールデン・マールを守ろう、というアピール。マールというのは火山活動によって誕生した浅い円形の火口のことで、このフォールデン・マールはおよそ2300万年前の噴火後に湖となりました。

当時、この湖は、水が流れ出す川がない構造であったため、周囲にあった森林の植物や、魚、昆虫などを含む貴重な生物群の死骸が湖底に溜まったままになりました。そして湖が干上がったあと、ここは世界的にも貴重な化石群の宝庫になったのです。

ところが、この化石群を含む珪藻土が「豚の餌に混ぜるのに良い」ということで、ある会社から採掘の申請が出されました。これに対して「貴重な地球生物の歴史を、よりによって豚に食わせるとは!」と猛反対が起こっていたのです。

これが気候変動ストライキになんの関係があるのか、というと、今こそ地球生物の歴史を振り返り、気候変動の影響を学ぶべきときに、金儲けのために化石群の破壊をするのは許せないということなのです。

また、ご存知の方も多いと思いますが、気候変動に対するアクションの一環として、CO2排出の多い畜産業を見直し、ベジタリアン/ヴェーガンになろう、という動きもあります(スウェーデンのグレタ・トゥーンベリもそのひとりです)。特に畜牛によって排出されるCO2量は無視できないと言われています。

そういう点からも「こういう環境/社会問題が、今、地元で起こっている」というアピールがなされたのです。

ちなみに、このフォールデン・マールでは、その後、採掘しようとしていた会社が申請を取り消しました。市民の圧力も、貢献していたと思います。

「人間の鎖」までレクチャー! 活動家への先鋭化!?

集会の最後に登壇したのは、”Stop the Minerals Forum” というグループでした。

学生ストライキの翌週に、ダニーデンではミネラル・フォーラムという鉱物資源を扱う会社等が全国から集まる会議が予定されていました。この会議は、別名を「石炭会議」とも呼ばれており、「将来、石炭や石油採掘をさらに推し進めようとする利益重視の会社のミーティングを、よりによってダニーデンでするとはどういうことだ!」と、環境保護団体が講義していました。

この環境団体を構成しているのは大人でしたが、「君たちも一緒に、気候変動に直接的に関係のあるの会議に抗議しよう!」と呼びかけました。

さらに、ミネラル・フォーラムのある当日は、「人間の鎖」を作って会合を開かせないようにしよう、と、なんと「人間の鎖の作り方」講座が始まりました。

「人間の鎖」は、非暴力の抗議方法です。抗議をしたい人たちが腕を組み、会議の開かれる場所へ人が入るのを邪魔するというもの。

もちろん、入りたい人は、右へ行ったり、左へ行ったりして、なんとか入ろうとするでしょうが、その動きに合わせて、

「はい、右へ〜!」

「次は、左〜!」

と、環境団体の人たちが声をかけて、「鎖」となっている人たちに指示します。

また、鎖の合間から入ろうとする人たちに対しては、座り込んで入らせないなど、上下の動きも入れて妨害をする練習をしました。

私は、正直なところ、こういう「活動家としての練習」をするとは思っていなかったので、やや微妙な気持ちになりました。気候変動に意識を高めた学生が参加するストライキ、ではなく、学生を活動家に仕立てるべく扇動しているようにも思えたのです。

しかし、よく考えてみれば、ストライキというのは本来思い切った手段。なのに私の中にイベント感があって、真剣にとらえてなかったのではないか、と思います。

自分の娘が、これを機に先鋭的な環境活動家になったとしたら、親としてどう対応するのか。右に左に、人間の鎖を作って動く学生たちを見ながら考えました。

学校ストライキをはじめたグレタも、今は「学生」ではなく、「活動家/アクティビスト」を名乗っています。大事な動機のためにそういう生き方を選択するならば、私の答えは「支持し、応援する」しかない、と悟りました。

となると「非暴力で、安全に」意見を表明するやり方を、安全な環境の中で学んでおくのは、悪いことではない、と思えました。

香港では、学生を含む多くの人々が、民主主義を守るために動きました。気候変動問題も、どこかでいつ先鋭化してもおかしくない、深刻な問題。

自分の考えを持って、信じる通りの行動をしていきたい、と思わせてくれた2回目の学校ストライキでした。

3回目については、また次回お伝えします。お読みいただいてありがとうございました。

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