ロックスター並みの国民的大人気! ニュージーランド保健省長官、アシュリー・ブルームフィールド博士って、どんな人?

ニュージーランドでは3月25日にロックダウンが始まってから、すでに3週間半が経過しました。ロックダウンの成果が出て、感染者の数も減少し、世界的にもニュージーランドの政策と、ジャシンダ ・アーダーン首相のリーダーシップが注目を集めてきています。

しかし、この間、国民の間で人気が上がっていったのは、首相ばかりではないのです。なんと、生真面目な役人である保健省長官のアシュリー・ブルームフィールド博士が、爆発的な人気となっているのです。

ラブソングが捧げられ、クロスステッチが作られ、ツイッターファンアカウントも複数あり、「今年ニュージーランドで一番活躍した人」にもノミネートしようという動きがある熱狂的な人気なのです。

しかし、博士の人気は、ただ表面的な理由から生まれたものではありません。アシュリー・ブルームフィールド博士はどうしてここまで人気が上がっているのか、いったいどういう人物なのか。私も感謝を愛を込めてまとめました。

この愛されぶりをまず見てください

日を追うにつれて人気が高まっているアシュリー・ブルームフィールド博士。まずは、その愛されぶりをご紹介しましょう。

博士に捧げる歌

まずはいくつか、博士に捧げる歌をご紹介しましょう。最初はこちら。

隔離されて出られないけど そんな悪いもんでもないわ
だって毎日1時になると 私の愛する人が見られるんだもの
金髪で あの顔で 何を言ったらいいかバッチリ分かってる
あの人の話し方は きっと大丈夫だって思わせてくれるの

アシュリー博士 私を捕まえてくれない?
ベッドインして抱きしめたい
ひとつ望みが叶うなら
あなたのバブル(注:同じ屋根の下で隔離)に入りたいの

ウェリントンのMaxwell Apseさんが作ったこの歌、Youtubeに発表されるや大反響となり、4月15日現在までに6万再生以上、急遽ミニアルバムまで売り出されました。

しかも、ジャシンダ首相に「歌まで作られてるのよ」と記者会見で言われて、ますます有名に!

この歌詞の「あの人の話し方は きっと大丈夫だって思わせてくれるの」というのがまさしくその通りで、人々の心を捉えました。

さらに、ラップ・ソングも登場しました!

「We love you brother, Thank you, The nation thanks You」
(愛してるぜブラザー、ありがとうな、国全体が感謝してるぜ」

ブーマー世代がここまで讃えられるのは、本当にまれなんじゃないでしょうか。

ツイッターファンアカウント

アシュリー・ブルームフィールド博士を勝手に応援したり、フォローするツイッターアカウントもいくつか登場しています。

まずは、ニュージーランドのオンラインニュースサイトnewsroomの記者、アナ・ラフィティ=コンネルさんのアカウント

もともとは個人アカウントだったものを、今は「Ashley Bloomfield Fan Club」というアカウント名に変更、1000に迫る博士関連のつぶやきをしています。

アナさんは、毎日午後1時に開かれるCOVID19のアップデート記者会見を「アシュリー・ブルームフィールド・ショー」と命名。ある記者が「COVID19にかかっているマオリ人あるいはパシフィック諸島出身者はどのくらいいるんですか」と聞いた時に、博士が「記憶にある限りでは」と断りを入れた上で、小数点一桁まで正確に数値を覚えていて回答したことを賞賛し、「そうだよね、急に言われても答えられるなんて凄いよね!」と多くの人の共感を呼びました。

そしてこちらのAshleyBloomfieldStanは、もうちょっとライトな感じのファン・アカウント。Stanというのは、Stalker(ストーカー)とFan(ファン)を組み合わせた言葉で、熱狂的ファン、という意味です。この、スーツを脱ぐとスーパーマンというトップ写真、ものすごく当てはまってます!

博士の記者会見の様子から、トリビュート音楽、クラフト、動画まで、いろいろ出てきてます。その中から、クラフトもの、いくつか紹介しますね。

クラフトなど

こちらはクロスステッチ。ジャシンダ ・アーダーン首相との記者会見の様子を作るようです。

https://twitter.com/bloomfield_stan/status/1249894733922496514

そしてなんと、タオルが製造されて、購入もできるように! 肖像権はどうなってるんでしょう?(笑)

そして、私の地元ダニーデンの印刷業者 Print Room からは、Tシャツとバッグも登場! 売り上げは女性避難基金へ寄付されます。

やや過熱気味とも思えますが、「何馬鹿なことやってるんだ」みたいな批判がちっとも聞こえてこないんです。これも、博士の正当な価値を誰もが分かっているからだと思います。

博士の人気の秘密はどこに?

アシュリー・ブルームフィールド博士は、ニュージーランド保健省長官として、ほぼ毎日午後1時にコロナ感染情報の最新情報を記者会見の場で発表します。その内容は、新患者数、合計患者数、死亡者数、入院者数、ICUに入っている人数、危篤の人数、クラスター数、検査数などで、淡々と発表し、それから記者の質問を受けます。

それだけなのに、博士はなぜここまで人気があるのでしょうか?

米資本のニュースサイト Slate の記者テス・ニコルさんの「ニュージーランド人の心をときめかせている、超絶的に有能だけどどこか退屈な公務員」という記事に、その理由が分かりやすく説明されていますので、ご紹介しましょう。

アシュリー・ブルームフィールドの話に、特別にすごい点は何もない。ここ2週間の登壇で、自画自賛したことは一切ないし、気の利いたコメントを言ったことすらない。勤勉に明確に記者の質問に答え続け、感染者数が増えてきたときには「これは予期されてきたことです」と私たちを安心させてくれた。「このウィルスはこうして拡大していくのです。でも、もし私たちがみなルールに従えば、数週間のうちに変化を見ることができるでしょう」と。

何より、私たちはただ、博士に保護してもらいたいのだ。今、アシュリー・ブルームフィーフドは国全体のお父さんだ。お父さんはいつも落ち着いていて、安心させてくれる。子供達(記者)が、今説明したばかりだというのに、また「どうしてカヤックをしにいっては行けないの」と重ねて聞いたときも、お父さんは疲れているのに、キレなかった。お父さんは私たちみんなにルールに従って欲しいのだ。ルールを作る権力があるから従わせたいからではなく、私たちのためを思ってだ。このパンデミックは、私たちの世界のありかたを全部根本的に変えてしまった。だから、部屋に大人がいて、次にどうしたらいいか知っていると思えるのは嬉しいことだ。

穏やかで、親切で、もの柔らかでハンサムな保健担当の役人が、この時代のヒーローとなるのは、納得いくことだと思う。あなたの住んでいる国にも「アリュリー・ブルームフィールド」がいてくれますように。

私たちの今求めている「科学的な裏付け」「優しさ」「思いやり」、そして究極的な「安心」が、今、博士に体現されているのです。そこが、大人気の秘密です。

アシュリー・ブルームフィールド博士は、いったいどんな人物?

では、博士はいったいどんな人物なのでしょうか。人々に「安心感」を与えるのも納得の、その経歴と人物像を振り返ってみましょう。

家族、そして大学時代まで

アシュリー・ブルームフィールド博士は現在54才。ウェリントン郊外タワで育ち、お母さんは学校の先生、お父さんはニュージーランド歩兵連隊の中佐を経て三菱モーターズの支部マネージャーでした。3人兄弟で、お兄さんは大学法学部の教諭、お姉さんは看護師です。

アシュリーはキリスト教系の高校に通い、生徒会長を勤めました。当時の同級生は、学業・スポーツ・音楽全てに秀でていたと語っています。その後、オークランド大学医学部に進み、将来の妻となるリビーさんと同じ医学部で出会います。

1990年に大学を卒業してからは、病院で働いたり、イギリスでも1年働きつつ、1996年に非感染性疾患を専門とする公衆衛生修士号を得ます。非感染性疾患とは、WHOの定義によると喫煙、不健康な食事、運動不足、過度の飲酒などによっておこる循環器疾患・がん・慢性呼吸器疾患・糖尿病などの「感染性ではない」慢性疾患を総称したものです。

公衆衛生分野は、例えば貧困や家屋の状況が健康にどのように影響するか、それを防ぐためにどのような対策が必要かを広く研究するもの。この時から、現在の公衆衛生分野の立役者としての土台が作られていくわけですが、最初は感染性ではなく、非感染性の病気を扱っていたんですね。

若きブルームフィールドは、医学博士の称号を取ると同時にリビーさんと結婚、働きながら3人の子供を育てています。今、子供たちはみな高校生〜大学生です。

保健省、WHO、地方保健理事会などでの役職

公衆衛生の専門家として、博士は数々の役職についてきました。

2004年から保健省の国民検診部門で仕事をし、地域別ではなく、実際の患者必要に応じた準備ができるような検診体制を作ることに尽力しました。非常に聡明で、情熱を持ち、仕事熱心な人材として、国のリーダーシッププログラムに参加もしています。

2005年から2010年までは同じく保健省のチーフ・アドバイザーに任命され、タバコ管理プログラムを担当。「伝説的」と言われる仕事をこの分野で成し遂げたそうです。

2011年には、ジュネーヴのWHO本部で国際的視野から非感染性疾患予防に取り組みました。世界的な視点も育んでいるんですね。ただ、WHO内部の官僚体質は大変だったそうです。

2012年に帰国してからは、5年間の間、いくつかの地方保健局(District Health Board) を指導する立場で仕事をします。ニュージーランドには20の地方保健局があり、その地方にある病院からGP(一般医)までを管理し、政府からの予算を上手に使って質の高い医療を提供するのが役割です。しかし、地方同士、また管轄区内部で予算の取り合いになり、また人的マネージメントも難しい「現場」です。この現場を体験することは、保健省のトップに立つには欠かせない学びの場なのだそうです。

保健省長官へ

ニュージーランドの医療雑誌、”Doctor” 2018年8月号では、新たに就任した博士のインタビューが掲載された

2018年6月、博士は27人の応募者の中から選ばれ、保健省長官に就任しました。

知っておかなければいけないのは、この時の保健省は不平等な予算の分配や疑わしい支出のため、全保健省長官チャイ・チュエが前年末に任期途中で辞任したばかりだったことです。“Disaster zone(災害地域)”とまで呼ばれていた混乱の中、暫定的に長官を務めていたステファン・マクカーナン博士を含め、多くの人から「彼ならできる」と選ばれたのです。

マクカーナン博士は、2006年から2010年にも長官を務めていたことがあり、この仕事の大変さをこう語っています。

長官の仕事がどれほど忙しいか、皆分かっていないと思いますね。普通の日でも、渡される書類は厚さが30cmほどにもなります。

部屋の外では、アイディアを話し合いたい人、書類の認証をして欲しい人、予定のミーティングが待っています。長官は新しいリサーチ、報告、20の地方保健局、政府からの要求、そして保健省各局からの細かい要望にも答えなくてはなりません。

ウェリントン(注:政府の意味)中の問題が、自分の身に降りかかってくるような気になることもあります

保健省長官は、1100名のスタッフを抱える省の長官であり、幅広い医療サービスの究極的な管理者であり、160億NZドルに及ぶ予算を管理する責任があります。政府に対しては戦略的政策ガイダンスを提供し、システムが機能しているか監査し報告し、また医療に関する政府のアドバイザーでもあります。

アシュリー・ブルームフィールド博士は、ただ毎日感染者数を発表する人、ではないのです。

混乱の中にあった保健省長官に就任した当時、ブルームフィールド博士は、保健省内でどのように仕事をしていきたいかと問われ、「キーワードはRespectful(互いを尊重する)ということです」答えています。

“The leadership is not about command and control, but con­vene and collaborate”

リーダーシップとは、命令して管理することではなく、招いて協力しあうことです。

結果を出し、問題を解決し、各セクターを改善するために、保健省はみなに集まってもらうという大事な役割を持っています。私にとってはこれが要であって、今までもスタッフにははっきりとこのことを伝えることができたと思います。

関係者全ての話をよく聞き、協力しあっていく。それを最も大事なポイントとしているチームプレイヤーである博士が、スタッフに支えられないはずがありませんね。

キリスト教会との深い関わり

アシュリー・ブルームフィールド博士の活動を見ていく上で、キリスト教会との関係は見落とせないところでしょう。

博士が生徒会長を務めたスコッツ・カレッジは長老教会派(プレビステリアン)の高校でした。

その後、同級生のリビーさんと結婚し、子供を育てていく上で、博士一家は教会との繋がりを深めています。

教会を通じ、信仰だけではなく、若者向けのプログラムなどにも積極的に参加しました。妻のリビーさんは、子育てと教育に深く関わり、現在ではキリスト教系小学校の礼拝堂牧師であり、心理ケアをする役割を担っています。

幼馴染で、現在は聖公会の牧師となっているデイモン・プリマー氏は、博士についてこう話しています。

彼の考え方と生き方には、信じられないほど一貫しています。彼は信じられないほど誠実で、他の人たち、そして人間性への深い思いを持っています。

一番活躍したニュージーランド人にノミネート?

アシュリー・ブルームフィールド博士の素晴らしい活躍ぶりに対して、すでに「今年一番活躍したニュージーランド人」(2021年に発表)へノミネートしよういう動きがあります。

記者会見でノミネートに対してどう思うか、と聞かれた博士は、こう答えています。

私に言えるのは、リーダーシップというのは協調行動へみなを招待するということだということだけです。私は運のいいことに、保健省および公衆衛生分野の素晴らしいチーム、そしてこの協調行動への招待を受け入れてくれたニュージーランドという素晴らしい国の一員に過ぎません。ですから、これはみんなの努力の賜物なのです。

このコメントに対して、ジャシンダ ・アーダーン首相は笑顔でこう付け加えています。

長官は謙虚な方。長官に捧げる歌まで作られてるのに。

https://twitter.com/maxyapsey/status/1249525688966643715

こうして誠実に謙虚に、チームのまとめ役としてコロナ対策の陣頭指揮をとるブルームフィールド博士。

断固としていながら人間味溢れるジャシンダ ・アーダーン首相のリーダーシップとはまた違った形のリーダーシップを見せてくれていますが、どちらもしっかりと効果を出してくれ、また国民をインスパイアしています。

この難しい状況の中、2人も素晴らしいリーダーがいるとは、ニュージーランド住民としては、感謝するしかありません。

まとめとおまけ

普通だったら地味な立場の役人でありながら、その誠実さと経験からチームをまとめあげ、稀有なリーダーシップを発揮しながら国民を安心させてくれるアシュリー・ブルームフィールド長官。

こうしてその人物像を探ると、ますます親しみと尊敬の念が湧いてきます。

ニュージーランドばかりではなく、世界からもその行動は注目されはじめ、将来は地球規模で公衆衛生部門を導いてくれるのではないか、とも期待してしまいます。

本日4月18日は、ロックダウン後初めて、政府記者会見がなかった日。昨日もアシュリー・ブルームフィールド長官は会見をしなかったのですが、のんびりおやすみ、ということではないでしょう。来週、警戒レベルをどうするかという重大な決断を前に、最新のリサーチやデータを研究し尽くしているのではないかと思います。

長官、よろしくお願いします!

長官に会えずにがっかりの方は、こちらの「Kia Ora Koutou Katoa(Hello Everyone)44連発」を見て、寂しさを紛らわしてくださいね!

 

アシュリー・ブルームフィールド博士の経歴等については、以下の記事を参考にさせていただきました。関心のある人は、ぜひ読んでみてくださいね。

NZヘラルド紙:Covid-19: Ashley Bloomfield’s rise to the top – the inside story

NZ Doctor紙:Who is Ashley Bloomfield? Delving into the New Zealand Doctor archives

オタゴデイリータイムズ紙:Cometh the hour…

スピンオフ紙:The face of the Covid-19 response: Who is Ashley Bloomfield

Wikipedia : Ashley Bloomfield

NZ保健省サイト:Introducing Ashley Bloomfield

関連記事はこちらです。

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