9月19日に総選挙を控えたニュージーランド。各党が本格的に選挙活動をはじめましたが、今日8月8日は、現政権である労働党が選挙キャンペーンを大々的にスタートし、オークランドで決起集会をしました。
その中で、党首であるジャシンダ・アーダーン現首相のスピーチを聞いて、心を動かされたので、一部ですが訳してみました。
目次
3年前、首相に就任した日のインタビュー
今日の演説の中で、ジャシンダ・アーダーン首相は、3年前、首相に就任した日のインタビュー内容を振り返りました(首相の登場は、上記12分42秒あたりから)。
2017年10月19日、国会に向かう途中でジャーナリストのジョン・キャンベルにインタビューを受けたということなのですが、その時のインタビューを、昨日まで聞いていなかったとのこと。これを改めて自分でも聞き直し、「私たちが政府としてしなくてはならないこと、そしてその理由は、3年前も今も変わっていない」、と語ったのです。そして、この時のインタビューで自分が語ったことを紹介しました。
John Campbell asked, “what is it you want to do?”.
I replied.
I want this government to feel different.
I want it to feel like we are truly focused on everybody.
I want people to feel that it is open and it is listening,
and it is going to bring kindness back in everything we do.
I know that all sound curious, but to me,
if people can see that they have an empathetic government,
I think they will truly understand when we are making hard calls
that we are doing it with right goal and right focus in mind.
That’s the feeling I want this government to create.
ジョン・キャンベルはこう聞きました。
「あなたは何をしたいんですか?」
私は答えました。
「私は、今までと違う、と感じられる政府にしたいのです。
本当に全ての人に気持ちを向けている、と感じてもらえる政府にしたいのです。
この政府は開かれていて、声をちゃんと聞いてくれると、人々が感じられるようにしたいのです。
そして、私たち政府がすること全てに、優しさを取り戻したいのです。
こんなことは変に聞こえるかもしれませんが、
政府が親身になっていることを分かってもらえたら、
厳しい決断をするときにも、それが正しい目標と正しい視点によるものだと、
人々は真に理解してくれると、私は思うんです。
それが、この政府によって作り上げたい気持ちなんです」
この、通常の首相就任に対するスピーチとは全く違う内容、驚きませんか?
このインタビューで私が感銘を受けたのは、2つ。
ひとつは、首相はこの3年前のインタビュー通りの仕事を、一切ぶれることなくやり遂げたということ。それは、クライストチャーチの銃撃事件の時も、コロナに対するロックダウンの時も同様です。まさにこうした「厳しい決断」を予期していたかのような発言だと、本当に思いました。
もうひとつは、ジャシンダ首相が、政府としての実績云々ではなく「人々と政府の関係」「人々の政府に対する気持ち」に焦点を当てて、それを目標にしていたことです。
人々との関係というのは、リーダーにとってはもっとも大事なものですが、世界のリーダーの多くに、地位や権力さえあれば庶民のことをおろそかにしてもなんとかなると思っているような人が沢山見受けられます。
その点、「人々にフォーカスしている」「話を聞く」「優しくある」などを最優先して、絆を作り、人に尽くしていこうという姿勢を見せたジャシンダ首相。先日、世界でもっとも雄弁なリーダーとして選ばれたのも、本当に納得できます。
https://twitter.com/KagiyaIzumi/status/1288946874146107393
フィアンセであるクラーク・ゲイフィードさんの紹介も楽しかった
今日の労働党集会では、ジャシンダ首相の演説の前フリが、フィアンセであるクラークさんだったことも驚きました。クラークさんはTVプレゼンターなどもしているので、慣れたものではあるでしょうが、この辺もなんというか、ファンキーで「こういうのが出来るのは、受けるよなあ」と思いました(上記の動画で、クラークさん登場は7分くらいから)
ざっとではありますが、こんなことを話していました。
ー3年前、労働党が政権を取ることになった瞬間に、彼女は非常に深い変化をした。
ー彼女は首相になった瞬間に、ハイギアに入り、以降一度もギアを落としていない。その後、砂利道に入ったり、シートベルトがなかったりしてきた。横で見ていて、怖いこともあった。
ーベッドに、内閣審議書類が持ち込まれた。パンくずよりたちが悪い(笑)。ほぼ毎朝6時、時には5時に携帯が鳴る。
ージャシンダは、国をよりよく、より公正で、安心な国にしようとしている。彼女には、天井というものがないようだ。まだまだやることがあると言う。
ー「世界で一番雄弁なリーダー」と認定された彼女と口論をするのは大変だ。僕は、絶望的状況で自分の考えを通そうと「道を3つ、新しいトンネルをひとつ作る」と言ってみたが、ダメだった。おむつバケツを洗うのは僕の仕事になった。( 注:道を3つ、トンネルを1つとは、国民党の公約)
ー次の首相職に対して、この国がこれまでに生み出した最高の候補者を、家族として大きな誇りを持って紹介させてもらいます。 チョコレートをパートナーから隠すことをしても、必ず毎晩、娘ニーヴからお気に入りの親に選ばれ続ける、僕のもうすぐ妻になる人、NZ首相、ジャシンダです 。
登場した首相によると、「クラークは、自分のスピーチを絶対に私に見せてくれないの」ということでした。ファースト・ハズバンド(もうすぐ)の生活も、ドラマがいろいろありそう。いつか、本にまとめて出してくれそうです。
ジャシンダ は、世界政治のあり方を変えられるか?
小国ニュージーランドの首相ながら、世界に注目を集めるようになったジャシンダ・アーダーン。
私は特に労働党支持者というわけではないのですが、首相のこれまでの業績と、クライストチャーチの銃撃事件の時も、コロナ対策のときも、ニュージーランド国民を「親切が大事」という理念でまとめ上げたことに、心から敬意を払っています。
世界で「リーダー」の中には、その地位や権力そのものに囚われている人が多いなか、「首相という職業」を誠実にこなそうとしているジャシンダ ・アーダーンは、政治のあり方を改めて見直す機会をくれるかもしれません。もちろん、それを国民がサポートすれば、ですが。
選挙まであと1ヶ月ちょっと。労働党は今のところ、圧倒的な支持を得ていますが、これから国民党や保守層も巻き返しをはかって攻撃してくるはず。どういう結果になるか、さらに注目しています。
今日もお読みいただきありがとうございました。Ka kite ano! (See you again!)
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